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2018.02.22

進化する日本の対外防衛協力

産経新聞【宮家邦彦のWorld Watch】(2018年2月15日)に掲載

  • 宮家 邦彦
  • 研究主幹
    宮家 邦彦
  • [研究分野]
    外交・安全保障

 自衛隊の米国武器調達は正式には「対外有償軍事援助(FMS)」と呼ばれる。Foreign Military Salesの略だが、米国から武器を買うだけの行為がなぜ「援助」なのだろう。これは30年前筆者がFSX(次期支援戦闘機)担当官となった当初抱いた素朴な疑問でもあった。

 答えは結構ややこしい。日米間にはMDA(相互防衛援助)協定があり、在京米国大使館にはFMS専門の部署まである。米国は米国製武器売却を日本に対する有償の「援助」と考えているのだ。当時の何とも割り切れない思いは今も鮮明に覚えている。

 しかし、時は流れた。昨年3月、日本はフィリピンに海上自衛隊の練習機TC90を無償供与した。マレーシアやインドネシアにも機材や技術の供与を検討している。7月には日印首脳が海自の救難機US2の対印売却や両国間の防衛装備品・技術協力について話し合った。日本にとっては「協力」であり、「援助」とは呼ばない。だが、米国から見れば立派な防衛相互援助だ。30年前を知る筆者にとっては隔世の感。時代は変わりつつあるのだ。

 変化といえば、自衛隊が参加する多国間軍事演習も同様だ。2000年の西太平洋潜水艦救難訓練を皮切りに、今や自衛隊は30以上の各種合同演習に定期的に参加している。多国間演習で海外に出ることは今や新常態なのだ。

 筆者が外務省の日米安全保障条約課長に就任したのは20年前。近年最も感慨深かったのは自衛隊の南シナ海での活動の進化だ。海上自衛隊の護衛艦「いずも」は昨年5月から南シナ海の海域と周辺諸国を訪問した後、インド洋で多国間合同演習に参加した。「いずも」は就役3年の新造艦、巷(ちまた)ではヘリ空母と呼ばれる海自最大の護衛艦だ。今回はシンガポール、インドネシア、フィリピンなどを歴訪。シンガポールでは国際観閲式に参加、フィリピンではドゥテルテ大統領を艦上に招待した。米空母との共同訓練後はシンガポールに戻り、報道陣とASEAN(東南アジア諸国連合)諸国の士官を乗せ、最後は米印とインド洋でマラバール合同海軍演習に参加、8月に帰国した。何のことはない、海自最大のヘリ空母が南シナ海を中心に約3カ月間、日本の平和的プレゼンスを維持したということだ。

 その期間、米海軍はトランプ政権下で初めてとなる「航行の自由」作戦を実施した。昨年5月にミサイル駆逐艦デューイがミスチーフ礁で、7月にはミサイル駆逐艦ステザムがパラセル諸島で、さらに8月にはミサイル駆逐艦ジョン・マケインがミスチーフ礁付近をそれぞれ航行した。10月にはミサイル駆逐艦チェイフィーがパラセル諸島近くを、今年1月にはミサイル駆逐艦ホッパーがスカボロー礁12カイリ以内を航行している。これらは決して偶然ではなかろう。トランプ政権下で対南シナ海政策は明らかに変わりつつある。護衛艦「いずも」の海外長期運用もこうした国際的活動の一環なのだろう。

 フィリピン海軍がスカボロー礁近くに停泊する中国漁船8隻を発見・拿捕(だほ)したのは2012年4月。その後中国は実効支配する岩を埋め立て南シナ海での軍事的プレゼンスを拡大する。米海軍が「航行の自由作戦」を本格化させたのは2015年10月から。最新の国家安全保障戦略で米国はロシアと並び中国を現状変更をもくろむ「戦略的競争相手」と位置付けた。それでは日本は何をすべきなのか。

 日本は中国と異なり、南シナ海に野心などない。目的はただ一つ、東シナ海から南シナ海、インド洋、湾岸地域に続くシーレーンを自由で開かれた海洋公共財として維持すること。だからこそ日本はインド太平洋地域の関係国・友好国とともに同地域での多国間防衛協力を拡大していく責任があるのだ。

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