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2018.03.20

ICTの限界: 情報価値裏付けるものとは

電気新聞「グローバルアイ」2018年3月13日掲載

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

 グローバル時代の情報通信技術(ICT)の重要性と有効性を、筆者は拙稿を通じて諸兄姉にお伝えしている。だが、当然のこととして、この世には完全なものなど存在しない。したがって今回は、ICTの限界について触れてみたい。

 結論を先取りして述べれば、ICTがいくら発達しても、情報に信頼が裏付けられていない限り、有効性は非常に低いという点だ。しかもその信頼とは、人間関係において永年にわたる忍耐と愛情に満ちた交流が無ければ、はかなく、またもろく崩れるものだ。従って固い信頼関係に裏打ちされてこそ、ICTが有効に働く。このことを筆者の経験に沿って述べてみたい。

 先月末、東京で国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(ICGN)及び国際総合報告評議会(IIRC)主催の会議が開催された。この会合に出席するため、米国の友人が1年半ぶりに来日し、様々な情報交換を楽しんだ。彼は父親と息子を含む3代にわたるハーバード大学の優等生だ。国交樹立前の中国共産党が、同大学に英語教師の派遣を依頼した時に、ビジネス・スクール(HBS)の学生だった彼は教師として北京に移り住んだ経験を持っている。それ以来、大学の台湾同窓会会長や外人初の中国金融機関(深圳発展銀行、現在の平安銀行)の董事長として活躍し、中国各地に不動産投資を行う人物だ。

 彼と知り合ったのは15年前。中国政治の専門家であるトニー・セイチ教授の紹介を通じ、東アジアの経済関係を語り合う機会を得た時だった。ケネディ行政大学院(HKS)の隣に在って、チャールズ川を望む彼の家に招かれた時、筆者は応接間に飾られた中国の英雄のひとり--岳飛--の書を発見した。彼に対し岳飛は日本でも有名で、明治維新時の英雄のひとり--橋本左内--は岳飛を景慕して景岳と号したことを伝えた。

 以来、様々な機会に彼の家に招かれ、米中欧亜の多くの人と知り合うという幸運に筆者は恵まれた。これに関連して、日本を代表する外交官のひとりである朝海浩一郎大使は、回想録『花みづきの庭にて』の中で次のように述べている。

 「外国人は自分の家で、夫婦で客を接待することが多い。客は奥さんの手料理をほめたりして、会話をはずませていく。これが食事の礼儀であり、友好を築き上げるゆえんであろう。日本人は多く料理屋で接待する。客は料理を楽しむかも知れないが、心あたたまる好意は余り感じない」と。

 筆者も彼の夫人の手料理を介し、友情と信頼関係が深まる過程を体験した。特に独り住まいだった筆者が風邪に苦しんだ時、彼女が何日にもわたって蜂蜜レモンを作ってくれたことは忘れられない経験だ。

 現在の中国経済に関する情報はその規模と多様性、そして変化の速さゆえに見極めるのが非常に難しい。このためICTの威力を借り、皮相的・短期的な観察に基づく怪しげな情報が拡散・蔓延している嫌いがある。こういう時だからこそ、固い信頼関係に裏打ちされた形で選択的にICTを活用することが肝要だ。

 非常に限られた筆者の経験を通じてでさえ、ICTの重要性と限界がご理解頂けたと思う。この点を特に若い読者諸兄姉に理解して頂きたいと念じている。

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