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2017.08.28

「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第100号(2017年8月)

小誌は大量の資料を網羅的かつ詳細に報告するものではない-筆者が接した情報や文献を①マクロ経済、②資源・エネルギー、環境、③外交・安全保障の分野に関し整理したものである。紙面や時間の制約に加えて筆者の限られた能力という問題は有るが、小誌が少しでも役立つことを心から願っている。

  • 栗原 潤
  • 研究主幹
    栗原 潤
  • [研究分野]
    米国情報・ネットワーク

 情報通信技術(ICT)の発達を背景として世界の経済構造が猛スピードで変化している。交通分野のUberや観光分野のAirbnbをはじめ、ICT援用型の様々な新規ビジネスは、良きにつけ悪しきにつけ、政策立案者をも巻き込む形で社会全体に新たな習慣と新たな摩擦を生み出している。この現象に関してニューヨーク大学とハーバード大学の研究者による論文は"computer programming tasksの国際貿易"に注目し、国際的なクラウドソーシング(crowdsourcing)について分析と評価を行っている("Digital Labor Markets and Global Talent Flows," May 2017、小誌前号を参照)。こうした理由から、この論文は日本の将来を考える上で重要だ。

 注目される点は次の4つだ--①国外のプログラマー達を利用する国は米国が断トツで、豪加英が続く。②翻って、優秀なプログラマー達による"tasks"の輸出、即ち国際的crowdsourcingの供給国は、インド、フィリピン、ウクライナ、ロシア、パキスタン、バングラデシュ、米国、中国、カナダ、ポーランドの順だ。③このようにデジタル作業の国際取引は、"モノ"の取引(商品貿易)の姿とは全く異なっており、"crowdsourcing分野における日本とメキシコの不在"を著者は注目している。④急速に成長するcrowdsourcingは、ハーバード大学のリチャード・フリーマン教授が映画『ロード・オブ・ザ・リング(The Lord of the Rings)』の中の"One Ring(全てを支配する一つの指輪)"と譬えた如く、"ヒト・モノ・カネ"のグローバルな移動を制御する要因になるとも限らない。こうした理由から日本の将来に不安を感じている。

 MITのスザンヌ・バーガー教授が著書(How We Compete: What Companies around the World Are Doing to Make It in Today's Global Economy, 2005)を執筆するため来日した2004年、教授と彼女の同僚(ティモシー・スタージョン氏)、そして筆者の3人は東芝や富士通、更には日本電産等のハイテク企業を訪問するという貴重な機会を得た。当時はシャープが未だグローバル市場の一角を支配しており、そのことを懐かしく想い出している。その時の調査を基にスタージョン氏は、日本企業の特徴の一つが"shallow, tactical alliances with foreign firms"と論じ、現在の日本の状況を予見した(Whittaker and Cole, (eds.), Recovering from Success: Innovation and Technology Management in Japan, 2006の中の論文を参照)。現下の課題は、「21世紀の日本企業がglobal digital platformsを如何にして安全かつ効率的に利用出来るのか」、だ。この意味でglobal networksを再構築する時を迎えていると言えよう。勿論、現在でも高い国際競争力を維持している日本企業が多数存在する。だが、その大多数はdigital networksを含む複雑なnetworksを海外企業と結合する必要のない、"単独"的・"孤立"的な財・サービスを提供する企業だと言えよう(これに関し、例えば、Haffner et al., Japan's Open Future: An Agenda for Global Citizenship, 2009を参照)。

 IoT等を通じて前述のglobal digital networksが、経済の効率化を更に推進する役割を果たすことは間違いない。だが、マルウェアを検知・駆除して、国や企業のcyberspaceを万全にするには、膨大な経済的資源が必要で、しかも、6月に施行された中国のサイバーセキュリティー法(网络安全法)や7月に承認されたロシアのデジタル経済計画(«Цифровая экономика Российской Федерации»)が示すように、行政組織ごとの制度的な制約が、遅滞なく流れるデータを制御・妨害することも明白だ。こうした状況下で、各行動主体--行政機関や企業、そして学校や病院、また個々人は、如何にしてデータを安全に保管し、相手側に遅滞なく伝え、マルウェアから自らを防御・隔離するのか--かくして各主体のinformation literacy向上が将来更に重要になることは必至である。



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「東京=ケンブリッジ・ガゼット:グローバル戦略編」第100号(2017年8月)PDF:341.9 KB

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