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2016.02.16

シリコンバレーから見るシェアリングエコノミーの本質とその裏にあるアルゴリズム革命

  • 櫛田 健児
  • International Research Fellow
    櫛田 健児
  • [研究分野]
    Political Economy, Information Technology, Politics
要約:

 最近、いわゆるシェアリングエコノミーが話題となっているが、その裏にある革命的な技術進化の本質を突いた議論はまだあまりされていない。シェアリングエコノミーはこの革命的な技術進化の一端に過ぎず、これから様々な分野で情報技術(IT)を駆使した新しいイノベーションが黒船のごとく日本に押し寄せて既存の業界をどんどん打ち破るだろう。こういったイノベーションの多くはシリコンバレー(SV)という造船所から産まれている。シリコンバレーから見ると、「アルゴリズム革命」が現在起こっており、クラウドコンピューティングにより人類史上初めて情報処理能力が貴重な資源から豊富な資源へと移り変わっている。これからどんどん進んで行くだろう。



本文:

 最近、いわゆるシェアリングエコノミーが話題となっている。自家用車をタクシー代わりに運用できるウーバー(Uber)やリフト(Lyft)、自宅の空いた部屋を貸し出せるエアビーアンドビー(AirBnB)など、シリコンバレー発のベンチャー企業が次々と空いた資産を活用できるサービスを急ピッチで世界展開させている。そしてそれらのサービスは様々な既存の業界を打ち破るような変貌も遂げている。例えばウーバーには宅急便の役割や、同じようなプラットフォームで医者や弁護士の出張診療やサービス提供を可能とするサービスがベンチャー投資家の注目を集めている。日本でも、運送会社の非稼働時間を使って軽ワゴンや軽トラックを手配できるハコベルなどが登場した。日本でのシェアリングエコノミーの議論は、規制によって自由にサービスが展開できない。世界規模のウーバーやエアビーに対してどのように安全や保険機能を担保しながらこういったサービスを展開できるのか、というところが注目されている。

 これから政策の議論にもとりあげられるこの話題に二つ新しい視点を加えたい。一つは、これらのシェアリングエコノミーがなぜ「外から黒船がやってくる」状態であり、国内での対応に戸惑っているのかという視点であり、「どうすれば日本初のシェアリングエコノミー系の会社が世界を取りに行けるか」という「攻め」の議論が無いのか、ということである。諦めるにはまだ早い。日本には色々なサービスのポテンシャルがあるし、国際展開も日本国内から見るほど難しくないと思っている。

 二つ目の視点は、そもそもシェアリングエコノミーのスタートアップはある日突然現れたのではなく、著しいIT(情報技術)の発展が可能にしていて、ITはまだまだ急ピッチで進化しているので、次の破壊的なイノベーションはこの延長線上に来る可能性が高い、ということである。これが本題である。


 ちなみになぜシリコンバレーの視点が重要なのかというと、様々な先端的なIT技術を使って新たな業界を作り上げたり、既存の業界を打ち破ってイノベーションを興した企業の多くがシリコンバレー発のスタートアップだからである。元々は半導体などを中心として発展した土地だが、20年ほど前から見ると、検索(ヤフーやグーグル)、電子オークション(ebay)、動画配信(YouTube、ネットフリックス)、オンライン決済(ペイパル)、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS、フェースブック、Linkedin)、ヒトゲノム解析やビッグデータ分析(Palantir)、そして最近、急発展中の自動運転、人口知能、Fintech(フィンテック)やバイオファーマもSVを中心に革新が起こりつつある。そんなSVから見ると、革新の中枢が見えてくる。

 それは「アルゴリズム革命」である。歴史的な産業革命は製造業の機械化が中心だったが、今は人間の活動がソフトウエアのアルゴリズムによって革命的に変化している。人間の活動はアルゴリズムによって表現できるようになると、タスク単位で分解したり、新しく組み合わせたり、タスクそのものを作り直せる。自動化の度合いで考えると分かりやすい。(図1参照)


図1

160216_kushida_image1.png

 多くの活動は「完全自動」となる。例えば、昔は手間がかかった情報検索やデータベース構築、会計処理などが完全自動化されている。「完全自動」の対局には、まだ人が必要な「人間活動」だが、これらもITによって生産性が上がりつつある。例えばタクシー運転のような人間活動はウーバーといった配信サービスを使うと運転手側の生産性が上がる。「完全自動」と「人間活動」の間には「ハイブリッド活動」があり、人間の活動をアルゴリズムが大きくアシストする。日本の例だとコマツの重機はソフトウエアが操作援助をして、昔は熟練操縦士のみができた作業を比較的経験が浅い操縦士もできるようにしている。アルゴリズム革命が進むにつれて、ハイブリッド化され、自動化されていく活動が増え続ける。そして完全自動化に近いほど経済活動の生産性は上がり、同時に、自動化された職の雇用を次にどうするか考えなくてはいけない。

 アルゴリズム革命を可能としているのは近年の飛躍的な情報処理能力(プロセシングパワー)の向上である。1965年に人類を月に送ったアポロ計画中央コンピューターは、85年発売のファミコンの情報処理能力とほぼ同等だった。そして同85年では世界最速のスーパーコンピューター・Cray-2に比べて2014年発売のiPhone6の処理能力は実に6倍である。そしてCray-2は数台しか存在しなかったが、スマートフォン出荷台数は2015年だけで15億台にのぼる。イエール大学経済学者のウィリアム•ノードハウス博士の試算によると、20世紀の人類の計算能力は手動計算の時代と比べると、76兆倍も上がったのである。

 1960年代にサービス業は生産性が上がらず、コストのみがかさむと提唱した当時プリンストン大学経済学者のウィリアム•ボウマル博士の構想が「Baumol's Cost Disease」と呼ばれていた。しかしインテルの創設者、ゴードン•ムーアが予想した半導体の集積回路の複雑さの度合いが倍増する、いわゆる「ムーアの法則」によって打ち破られたのである。

 最も革命的なのは、多くの誤解が伴っているクラウドコンピューティングである。「ネット=クラウド」という表現で使われがちだが、クラウドの本質はアマゾンやグーグル、マイクロソフトなどが世界の至る所に1000億円規模のデータセンターを置いている、「超巨大データセンター群」の情報処理能力を他の企業やユーザーが使えるというものである。アマゾンでは、実は情報処理能力の提供の方が電子商取引よりも利益を上げているほどである。動画配信のネットフリックスや日本でおなじみのDropboxなどは自前のサーバーを持たず、アマゾンのクラウドサービスを活用して急拡大している。シェアリングエコノミーの企業は大量のデータ処理をこういった外のリソースを上手に使うことで初めてサービス提供が可能となっている。

 ウーバーもエアビーも、他の会社が作った非常にパワフルな情報ツールの上にサービスが成り立っている。例えばウーバーは様々な複雑な情報の処理を瞬時に行っている。客がドライバーを呼ぶための位置情報、客が行きたいところ、そして以前の乗車経験をドライバーから評価された点数、そして行き先といった情報が、近くにいると判断されたドライバー達に割り当てられる。ドライバーはスマホのアプリでそれを見て、15秒以内にその客を乗せるかどうか判断し、乗せると決めたらドライバーの顔写真や車の情報、過去の客によるランキングの平均点をその客に知らせ、客はウーバーのアプリ上にドライバーの車の現在位置と到着までの時間が見えるようになる。しかもリアルタイムで車のアイコンが動き、現在位置と到着時間が常時アップデートされる。そして乗車中もウーバーは全てのドライバーの位置情報とルートなどを把握し、データを取っているのである。そしてアメリカだけで見ても、ウーバーのドライバーの数は急成長しており、2015年12月に4回以上お客を乗せたドライバーは16万人以上に上った。これだけの情報処理をし、なおかつ急成長してもシステムトラブルや容量不足でトラブルが起きていない理由には、クラウドコンピューティングというITインフラがあったからに他ならない。

 人類史上、情報処理と保存能力は希少資源で高価なものだったが、今は豊富な資源となっている。2000年代後半のクラウドの到来でアルゴリズム革命が加速し、今のシェアリングエコノミー企業が現れた流れである。

 日本での議論は、日本の規制にこれらシリコンバレー発のサービスがどう適応されるかというところに終始してはいけない。むしろ、世界が取れるこういったサービスプラットフォームをどうやったら作り出せる環境にできるか、ということが本気で議論されるべきだと思う。

 システムやサービスは、モノに比べて国際展開が難しいということを日本は痛感して来た。世界に先駆けて大ヒットしたiモードは結局ほとんど国内留まりとなり、Appleはそのビジネスモデルから大きなヒントを得た。最近フィンテックが世界の投資家の注目を浴びているが、日本では電子マネーが10年前から流行っている。新幹線は恐らく世界最高の高速鉄道システムでありながら、台湾以外は広まっていない。これはモノである自動車産業や精密機器で世界のトップを走っている日本企業とはかなり異なる。

 アルゴリズム革命は豊富となった情報処理能力を駆使してこれからどんどん進むと予想され、日本でも「攻め」を意識したイノベーションを意識しないと次々にまた次世代ITを駆使した黒船がやってくるだろう。政策議論も「黒船」対策として新たなサービスが現れた時に対応するのではなく、前向きにシリコンバレーなどの現地調査に有識者を送り込みながら「黒船造船所」も見に行って欲しい。私がプロジェクトリーダーを務めるStanford Silicon Valley - New Japan Project (SV-NJ, www.stanford-svnj.org) も是非活用して欲しいプラットフォームの一つである。



参考文献:

Zysman, J., Feldman, S., Kushida, K. E., Murray, J., & Nielsen, N. C. (2013). Services with Everything: The ICT-Enabled Digital Transformation of Services. In D. Breznitz & J. Zysman (Eds.), The Third Globalization? Can Wealthy Nations Stay Rich in the Twenty-First Century? (pp. 99-129). New York, NY: Oxford University Press.


Kushida, K. E., Murray, J., & Zysman, J. (2015). Cloud Computing: From Scarcity to Abundance. Journal of Industry, Competition and Trade, 15(1), 5-19. doi:10.1007/s10842-014-0188-y


Kushida, K. E. and J. Zysman (2009). "The Services Transformation and Network Policy: The New Logic of Value Creation." Review of Policy Research 26(1-2): 173-194.


Nordhaus, W. D. (2007). "Two centuries of productivity growth in computing." The Journal of Economic History 67(01): 128-159.


Triplett, J. E. and B. P. Bosworth (2006). "Baumol's disease" has been cured: IT and multifactor productivity in US services industries. The new economy and beyond: past, present and future. D. W. Jansen. Cheltenham, UK ; Northampton, MA, Edward Elgar: 34-65.


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