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2015.05.15

シェールオイルバブルの崩壊の米国の金融及び雇用に対する影響

シリーズコラム『小手川大助通信』

  • 小手川 大助
  • 研究主幹
    小手川 大助
  • [研究分野]
    海外情報・ネットワーク

1.石油価格の下落

 石油価格は2014年6月の105.24(WTI)米ドルから直近では52ドル台まで下落しています。この背景には需給関係についてのコンセンサスがある。中国の経済成長率の鈍化をはじめ、新興国の需要の伸びが大きく見込まれない中で、供給は米国のシェールオイルの増産を主要な原因として大幅に増加している。このような状況で、中東産油国が価格維持のための減産を見送っているからである。11月27日のOPECの会合でも、サウジアラビアが減産に強く反対し、石油価格は下落の一途をたどることになった。


2.サウジアラビアの不満

 サウジアラビアが石油価格の下落を放置している理由として、後述の3つが挙げられているが、まず、その背景にある、9.11以降の米国の政策に対する大きな不満について説明したい。

(1)9.11後、米国は2001年10月に、アメリカをはじめとする有志連合がアフガニスタンに空爆を開始し、2か月のうちにアフガニスタンを制圧した。
また、2003年3月にアメリカとイギリスはサダム・フセインが支配するイラクに対して開戦し、約2か月で全土を制圧した。

(2)以上のような米国の政策は結果として、イランを利することになった。まず、タリバンやアルカイーダに支配されていたアフガニスタンは、隣国イランにとっても急進的なイスラム思想の伝染などの観点から頭痛の種であったが、米国を中心とした勢力による制圧により、イランの心配の種はなくなった。

(3)また、イラクは、英国の植民地政策の流れから、少数派のスンニ派であるサダム・フセインが多数派のシーア派の上に立って国を支配していた。そして、イランとは1980年代末から何度も地域紛争を繰り返すなど、イランの仇敵となっていた。フセイン政権の転覆は、結果としてシーア派によるイラク支配をもたらし、イランの友好国が生まれることになった。

(4)このようにイランを結果として利することになった米国の政策は、シーア派の領袖としてのイランに対抗し、自らをスンニ派の領袖と自認するサウジアラビアにとっては大きな不満の種となった。


3.サウジアラビアの狙い

(1)イランに対する圧力

 2013年6月に成立したイランのロウハニー政権は欧米との和解を模索しており、イランが1970年代末以来40年ぶりに国際的な孤立状態を解消して、政治的にも経済的にも国際舞台に復帰する日が近くなってきた。シーア派の中で最大の人口を有するイランの国際社会への復帰は、スンニ派の盟主であるサウジアラビアにとっては看過できないできごとであり、イランの主要輸出産品である石油製品の価格の下落により、イランの体力を弱める意図が見て取れる。

(2)ロシアに対する圧力

 イランの最大の支持者であるロシアについても、その国家収入の6割が輸出石油にかける課税であることから、石油価格の下落は国家財政に大きな影響を及ぼす。サウジアラビアの政策は、このような形で、ロシアに対しても圧力をかける目的があるものとみられている。実際、11月末のOPEC総会が価格下落の放置を決定した後、ロシアルーブルは下落をはじめ、12月16日には1ドル=80ルーブルという最低値を付けた。これは主として、ロシア企業のドル調達に関する懸念に基づくパニック的な動きが原因であったが、その背景として、石油価格の下落があったことも事実である。その後、ルーブルは中央銀行の各種の政策もあって、50ルーブルの半ばまで持ち直している。

 ロシアの2014年度(=2014年暦年)予算の前提では石油価格は90ドルとなっており、2014年の半ばまで石油価格は100ドルを優に超していたので、収入は当初見積もりを上回っていたし、ロシア政府が比較的自由に削減できる予算の採取時期は年度末の12月に集中しているので、2014年については問題ないものとみられている。ただ、2015年も石油価格の低迷が続いた場合には、ロシア政府は歳出の抜本的な見直し、特に、主要な非義務的経費である、軍事費と地方交付金の削減を行わなければならないであろう。

(3)シェールガスへの影響

 以上の(1)、(2)がマスコミにおいてもよく報道されている事実であるが、サウジアラビアの狙いはさらに、米国におけるシェールガスの生産に打撃を与え、シェールオイルのおかげで石油輸入国から輸出国に変わった米国を再度輸入国、それもサウジアラビアからの石油輸入に依存する状況に戻すところにある。シェールオイルの損益分岐点はバレル75ドルであるので、現在の価格水準はこれを大幅に下回っており、よほど効率のいい採掘場でないと利益は期待できない状況になっている。


4.石油価格下落の経済への影響

(1)このような状況下、既に11月からシェールオイルの生産基地では従業員の解雇が始まり、現在の状況が継続すれば2015年には40万人が職を失うという試算が発表されている。

(2)また、フューチャーマーケットでシェールオイル関連のデリバティブを購入している米国の大手投資銀行に甚大な影響が出るのではないかと危惧されている。デリバティブの基準価格はバレル85ドルに設定されているため、現在の価格が継続すると、満期が到来する2015年暮れから2016年春にかけて、大手投資銀行は多額の損失を計上することになり、破たんする可能性もある。投資銀行の中には10兆円のエクスポージャーを有するものがある。そこで、この問題に対応するために、米国議会は、2014年12月に下院、2015年1月に上院で急遽ドッド・フランク法を改正し、それまでセーフティーネットの対象外になっていた石油や穀物などの商品に関するデリバティブをセーフティーネットの対象とした。したがって、万一投資銀行が破綻の淵に瀕しても、法律上は救済できる仕組みが整えられている。しかしながら、リーマンショック時の救済に続いて2回目の救済となること、米国内の金融機関に対する批判の高まりを考慮すると、政治的観点から見て、救済が可能かどうか、また救済するとしてもそれに伴う銀証分離の可能性など、不安要因にはいとまがない。

(3)今年春のIMF総会時のGFSR(Global Financial Stability Report)はシャドーバンクや投資信託と言った、規制されていない部門への投資の拡大と、それに伴うリスクの増大に警鐘を鳴らしている。その関連で、石油産業に対する貸付残高が、リーマンショックのころの2.7倍と大幅に増大していることを指摘している。

 2013年から米国連邦準備制度理事会はシェールオイルや風力発電、太陽光発電といったエネルギーセクターに主として向けられた多額のレバレッジド・ローンをやめるように勧告をしていた。石油産業は過去10年にわたり多額の借金をする一方で配当を行うとともに株を買い戻してきており、他にめぼしい投資対象がない中で、シェールオイルブームは石油産業に対する多額の貸付をもたらしたのである。今後、この貸付がどうなっていくか十分注視する必要があろう。

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