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2018.11.05

トランプは中間選挙で敗れても変わらない - 次の大統領選まであと2年、米国の通商政策は変わらないと覚悟しよう-

WEBRONZA に掲載(2018年10月22日付)

  • 山下 一仁
  • 研究主幹
    山下 一仁
  • [研究分野]
    農業政策・貿易政策
上院は共和党、下院は民主党

 アメリカの中間選挙に対する関心が、我が国でかつてないほど高まっている。

 大統領選挙の行方はこれまでも大きく報道されてきたが、二つの大統領選挙の中間に行われるこの選挙について我が国の関心は低く、新聞報道も少なかった。今回の中間選挙への関心が高いのは、大統領に対する信任投票となるこの選挙で与党共和党が敗北すれば、トランプ大統領のさまざまな政策、特に日本の経済や産業に大きな影響を与えかねない通商政策が変わる、つまり正常に戻るのではないかという期待があるからだろう。

 大方の予想は、改選される議員のほとんどが民主党である上院では、民主党が現有議席を確保できるかどうか確実ではなく、中間選挙後も共和党が多数となるが、全議席が改選となる下院では、大統領自身の女性スキャンダルや女性への性的暴行疑惑があったカバナー最高裁判事候補が共和党多数の上院によって承認されたことに対する女性票の反発などから、民主党が多数を獲得する、というものだ。

 もちろん、前回の大統領選挙で優勢と言われたヒラリー・クリントン候補が敗北したり、民主党勝利の予想に危機意識をもった大統領支持派の共和党員が投票に向かう可能性もあることから、予断を許さない。ただし、ここでは、予想通り下院で共和党が敗北するという前提で話を進めたい。


トランプの主張は伝統的な民主党の主張

 9月末から10月初めにワシントンを訪れた際、アメリカを代表する複数のシンクタンクの友人たちや政府の高官だった人に、中間選挙で与党共和党が敗北するとトランプ大統領の通商政策が変わるのではないかと質問してみた。

 彼らの答えは、おしなべてノーだった。

 ある人は、輸出が勝ちで輸入は負けだというトランプ大統領の信念ともいえる考えは、彼の骨の髄までしみこんでいるようなものなので、中間選挙で負けたからといって、変更することはありえないと語った。

 ほとんどの人が指摘したのは、もともと共和党が自由貿易主義で、労働組合を基盤とする民主党が保護貿易主義だったので、民主党が勝ってもトランプ大統領の保護貿易政策は継続されるだろうというものだった。ある人は、トランプの保護貿易主義で共和党が負けるのなら、自由貿易派の共和党の議員が反乱するかもしれないと述べていたが、少数派になった以上政策には影響できない。

 そもそも、TPPからの撤退やNAFTA(北米自由貿易協定)の見直しといった保護貿易主義的な考え方は、民主党の大統領予備選挙を戦ったバニー・サンダース上院議員が主張し、これでクリントン候補を追いつめることになったものである。これを見たトランプが、本選となる大統領選挙で同様の主張を繰り返して、本来民主党の地盤だったラストベルト地域でクリントン候補を破り、見事に当選を果たしている。

 つまり、トランプ大統領の主張は、対立する民主党の伝統的な主張なのである。


民主党よりも民主党的なNAFTA見直し

 NAFTAが再交渉されて、USMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)となった。トランプ政権は、共同戦線を取っていたカナダとメキシコを分断し、最初にメキシコと合意し、最終的にはカナダも入れて3か国の協定にした。カナダの参加が不確定な時期には、USMCをもじって「(US)アメリカ、(M)メイビー(C)カナダ」などという冗談も聞いた。

 トランプ大統領はカナダが言うことを聞かないなら、メキシコとだけの協定にするとカナダのトルドー首相を脅していたが、経済・貿易面でアメリカにとって重要なカナダが入らない協定をアメリカ連邦議会が承認するはずがなく、カナダも入れた三か国の協定としたことは、トランプ政権の得点だろう。

 しかもUSMCAの中身を見ると、まるで民主党よりも民主党的な政権が交渉したかのような内容となっている。

 まず、各国は労働条件や環境基準を緩和することによって競争上有利な条件を獲得してはならないという、これまで共和党は否定的で、労働組合や環境団体を支持基盤とする民主党が強く主張してきた、"貿易と労働"、"貿易と環境"という部分は、削除されることなく維持された。産業界寄りの共和党は地球温暖化対策などの環境対策には反対してきた。

 共和党のブッシュ父政権が交渉を妥結したNAFTAには、当初この部分はなかった。それを民主党のクリントン政権になってから、この二つをNAFTAの補完協定をして結ぶことで、連邦議会を通過させたという経緯がある。もちろん、民主党のオバマ政権が交渉したTPPには、この二つの章が規定されている。本来の共和党政権がNAFTAの見直し交渉をしたなら、削除しただろう。

 安全保障上の理由から鉄鋼・アルミニウムの関税をアメリカは引き上げたが、USMCAでもこれはそのままとまった。ラストベルト地域の鉄鋼等の労働者や労働組合は歓迎するだろう。

 また、為替レートを操作して競争条件を有利にしてはならないという条項が、初めて取り入れられた。これは民主党の一部が強硬に主張してきたが、民主党のオバマ政権でさえ、金融政策を貿易政策が制約してしまうという理由で認めなかったものである。それを共和党のトランプ政権が実現したのである。

 極めつきは、NAFTAと異なりUSMCAには、FT(自由貿易)という部分が欠落していることである。これは自由貿易協定ではないということだろう。

 これが来年、アメリカ連邦議会の承認を待つことになる。中間選挙で与党の共和党が勝っても負けても、USMCAは連邦議会を通過する。というより、民主党が勝った方が承認されやすい。トランプは大統領選挙で主張してきたTPP脱退とNAFTA見直しの両方を実現したことになる。


管理貿易政策の元祖は日本

 ところで、我が国では、メキシコにもカナダにも自動車の対米輸出が一定台数を超えると25%の高い関税を課すことになったことを、数量制限だとする主張を一部マスコミが展開している。

 安全保障上の理由で25%の関税をかけることは問題だが、(それを問題視するならともかく、またはそれが正当化されるのなら)これ自体はガットやWTOで禁止される数量制限ではない。

 それどころか、これは農産物で日本が多用している貿易政策なのである。

 例えば、牛肉、米、小麦、乳製品などの品目では、安い関税での輸入量が一定量を超えると高い関税がかかることになっている。しかも、その関税は、25%どころか、牛肉で50%、それ以外では200%をはるかに超える税率である。アメリカを保護貿易とか管理貿易を採ったと批判するのかもしれないが、アメリカにこの政策手法を教えた元祖は日本の農林水産省なのである。

 われわれは、ようやくアメリカも日本の域に追いついたと評価すべきなのだろうか?


トランプ再選はあるのか?

 いずれにしても、次の大統領選挙までの2年間はトランプ政権の通商政策に変更はないと覚悟しなければならない。

 では、次の大統領選挙でトランプ再選はあるのだろうか? 意外に再選はある、というよりその可能性が高いという見方がアメリカでは一般的なようである。

 しかし、波乱となるのは、中西部の農業票である。

 中国が大豆の関税を引き上げたことから、アメリカの大豆生産者は大きな打撃を受けた。このため、アメリカは約1.3兆円もの緊急対策を講じた。これは一度きりの対策である。

 しかし、これだけでは済まない。アメリカで最も土地が肥沃なコーンベルトと言われる中西部では、農家は、大豆とトウモロコシを作付している。通常はある年に大豆を作ると、翌年はトウモロコシというように、輪作している。これは北海道でも行われているように、畑作地帯で同じ作物を作ることによる連作障害を避けるためである。

 しかし、2008年にトウモロコシ価格が高騰すると、大豆の作付を減少してトウモロコシを増産したように、この二つの作物には代替関係がある。

 今年、大豆価格が下落した。中国が関税を下げない限り、来年も事態は改善しない。となると、農家はトウモロコシの作付を増やす。これはトウモロコシの価格を下げる方向に働く。元アメリカ農務省高官で著名な農業経済学者でもある人は、先月意見交換した際、代替("substitution")という言葉を強調していた。経済では、玉突き現象が起こるのである。

 さらに悪いことに、アメリカの競争国であるブラジルが大豆の作付を過去最高のペースで進めている。中国はあと少し我慢すれば、ブラジルから大豆を輸入することが可能となる。ブラジルもアメリカと同様大豆とトウモロコシの輪作であるが、温暖なブラジルは同じ年の二期作である。大豆の作付が早くなるということは二期作目のトウモロコシ生産により多くの農地を利用できる、つまりトウモロコシが増産されるということである。

 こうなると、トウモロコシ価格はさらに下落する。アメリカの農家にとっては、大豆を作ってもトウモロコシを作ってもダメという、踏んだり蹴ったりの有様となる。アメリカ農業は深刻な不況となるかもしれない。

 農業の中西部はラストべルト地域と重なる。確実とみられるトランプの再選に赤信号が点滅するだろう。

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