本文へスキップ

2018.06.01

もうやめて!「減反廃止」の"誤報"

WEBRONZA に掲載(2018年5月18日付)

  • 山下 一仁
  • 研究主幹
    山下 一仁
  • [研究分野]
    農業政策・貿易政策

 NHKが5月9日に放送した特集「"減反廃止"でもコメの生産が増えない」を見て、私は「またか」と力が抜ける思いがした。

 その内容は「減反政策が今年廃止された。しかし7割を超える都道府県が前年並みの作付けで生産を増やそうとしていない」としたうえ、北海道の米農家を登場させて「高齢化・人手不足」を理由に挙げるものだった。他方、「飼料用米に国から手厚い補助金が出るため、弁当などの業務用の米が不足し、価格が上昇している」とも報じた。

 私がWEBRONZAの「アベノミクスが壊す〝みずほの国・日本〟」(2018年1月9日)「減反は廃止されるどころか強化されていた」(2016年12月19日)で繰り返し指摘してきたように、「減反廃止」は安倍晋三首相が自ら振りまいたフェイクニュースである。

 補助金を与えて減反させるという基本的な仕組みは何も変わっていない。にもかかわらず、日本のマスコミは「減反廃止」を既定路線のように報じ続けているのだ。


「挙国一致」のフェイクニュース

 減反とは、価格の維持を目的とした生産調整である。

 減反政策の見直しにほとんど関与しなかった安倍首相が2014年に「40年間誰も出来なかった減反廃止を行う」と大見栄を張った時、減反政策の見直しを行った自民党農林族幹部も農水大臣以下の農林水産省の担当者も「減反の廃止ではない」と明白に否定していた。

 トランプ大統領が原稿なしの不規則発言をし、政府高官がその内容を否定するという今の米国とまるで同じ状況である。

 米国と違うのは、日本のマスコミが裏付け取材をしないでこのフェイクニュースに飛びつき、大々的に報道した結果、安倍首相がその後に国会で発言を撤回したにもかかわらず、フェイクニュースが訂正されないまま今日まで来てしまったことだ。安倍首相自身は、撤回後は減反廃止という発言はしていないようだ。

 正確な報道をしたのは、農協の機関誌である日本農業新聞だけだった。こうして行われもしない「減反廃止」が定着した。「挙国一致」のフェイクニュースと言って良い。

 減反が廃止されたら生産が増えて価格が低下するはずだが、実際には逆の現象が起きているため、NHKの特集はその理由として「高齢化・人手不足」を挙げていた。そう位置づければ、安倍首相が掲げた「減反廃止」による政策効果(生産の増加)がなかったことにはならないと考えたのだろうか。NHKが安倍首相を忖度したかのようである。


飼料米が増え、「減反」は強化された

 事実関係を整理しよう。水田面積10ヘクタールの米農家は、6ヘクタールで米を作り、4ヘクタールで麦や大豆など他の作物を作っている。この他作物の作付けを「転作」または「減反」と言う。

 主食用(家庭用と業務用の合計)の米の価格は他作物に比べて高いため、他の作物を作っても主食用米の水準の収益が得られるよう、政府は農家に補助金を与えて転作・減反を実施させてきた。同じことを逆の側面から言うと、補助金を与えて転作・減反させることで主食用米の供給を減少させ、主食用米の価格を高く維持してきたのである。

 これに対し、多くの兼業農家が他の作物を植え付けても収穫しないという"捨て作り"という対応をしてきた。それでも米を作らないという減反政策の目的は達成できるため、政府は見て見ぬふりをしてこうした兼業農家にも補助金を支給してきた。

 だが、これは褒められたことではない。そこで、米農家なのだから麦は作れなくても米は作れるはずだとして導入したのが、主食用米とは用途が違うだけの飼料用米を転作作物として認める減反補助金だった。

 安倍総理が「減反廃止」と大見栄を張った政策の見直しは、この飼料用米を対象とした減反補助金の大幅増額だったのだ。

 増えたのは主食用の米ではなく、市場での価値はタダ同然の飼料用の米である。減反は廃止されていない。それどころか逆に強化され、米価は上昇しているのだ。


「人手不足で米を作れない」のまやかし

 さりとて、NHKとしては今さらフェイクニュースを訂正できない。「高齢化・人手不足」のため主食用の米の生産を増やしたくても増やせないという理屈をとってつけるしかなかったのではないか。

 減反が廃止されれば、飼料用米への減反補助金も廃止される。その場合、農家は同じ米を作り、タダ同然の飼料用米ではなく、高く販売できる主食用米として流通させるのは当然のことだろう。米自体の生産が増えなくても、今まで飼料用米として流通していたものが主食用米に回り、主食用米の供給は増えて米価は低下する。農家は人手を増やす必要などない。

 つまり、減反が廃止されれば、主食用米の生産は増加するので、「米価上昇」など起きないのだ。そもそも米作りに人手が足りないなら、主食用米の生産量を維持したうえで、飼料用米の生産が増えることなどなかったはずである。

 NHKが紹介した33ヘクタールの北海道の米農家の経営実態が分からないので正確なコメントはできないが、減反補助金は今まで通りなので、主食用米の収益が転作よりも十分に高くなると判断しない限り、今年もこれまで同様4割の面積で転作・減反するはずだ。主食用米の生産は増えない。新たに農地を取得し、規模を拡大して主食用米の生産を増やすのなら追加的に人を雇わなければならないが、その場合は転作・減反とは別の話である。


ウソがウソを呼ぶ森友事件と相似形に

 なお、北海道で米農家が容易に規模拡大できないことにはワケがある。降雪シーズンの到来が早く、9月までに収穫を済ませなければならず、これから生育期間を差し引くと田植えの時期を10日程度しかとれないためだ。夫婦2人だと10ヘクタールほどが限度である。

 このような事情にない都府県では、標高差を活用したり、早生から晩生までの品種を作付けたりすることで、長いところでは2~3ヶ月かけて田植え・収穫ができる。傾斜農地の多い中国山地の中山間地域でも夫婦2人で20ヘクタールを経営する農家もある。

 しかも、北海道と違い、都府県の農家はほとんどが小規模な兼業農家だ。減反(補助金)が廃止されれば、わずかの面積の転作を止めて主食用米の生産に転換することは簡単だ。かつては多数の人手や手間がかかった田植えも、機械がやってくれる。都府県では比較的規模の大きい1ヘクタールの米農家でも、今では年間30日しか農作業を行っていない。人手などいらない。だから飼料用米の生産が増えたのだ。

 NHKが報じた北海道の農家は、田植えの人手が足りないと話していたが、田植えをする必要のない「直播」という農法が大規模稲作農家では普及している。労働が足りなければ、技術や資本で代替できるはずだ。

 NHKの報道は、フェイクニュースを取り繕うため、さらにフェイクニュースを重ねたように私には見える。ウソを取り繕うため、別のウソをつき、文書まで改ざんする。森友事件における財務省の対応にどことなく似ていないだろうか。

同シリーズコラム

同シリーズコラムをもっと見る

山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

山下 一仁 その他コラム・メディア掲載/論文・レポートをもっと見る

マクロ経済 その他コラム・メディア掲載/論文・レポート

コラム・論文一覧へもどる