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2018.01.11

米の値段はなぜ上がるのか?-農家は貧しくない。減反政策で一方的に損をしているのは、国民・消費者に他ならない-

WEBRONZA に掲載(2017年11月29日付)

 全農等が卸売業者に販売する米の卸売価格が今年も上がっている。この3年間でみると、各年10.0%、8.6%、8.2%ずつ上昇し、合計で3割も上昇している。これに伴って、消費者がスーパー等で購入する米の価格も上がっている。


米の価格はどうして決まるのだろうか?

 米の価格は、高校の政治・経済の教科書で教えるとおり、需要と供給で決まる。これは他の物と同じである。需要、つまり消費が増えれば上がるし、減れば下がる。供給、つまり生産が増えれば下がるし、減れば上がる。簡単な経済学である。

 米の消費は長期的には減少してきている。この数年間も横ばいか微減である。米の価格を上げるような消費の増加はない。

 生産はどうだろうか? 今年産米の作況指数は100で平年作である。作柄で見ると、米の価格は上がるはずがない。つまり市場だけの要因で見る限り、米の価格は上がるはずがないのである。


なぜ米の価格が上がるのか?

 そうであれば、なにか人為的な要因で米の価格が操作されていることになる。それが政府による減反政策に他ならない。

 減反政策とは、農家に補助金を与えて米の生産=供給を減少させ、米の価格を上げて、農家の販売収入や農協の販売手数料収入を上げようとする政策である。

 農家は補助金を受けたうえで米価も上がるという利益を受ける。逆に一般の国民や消費者は、納税者負担と消費者負担の増加という二重の負担をすることになる。

 その際、単に米の生産を減少させるのでは国民にまったくメリットのない後ろ向きの政策だというイメージを与えるので、米の代わりに国内生産による供給が不足し輸入に依存している麦や大豆などの作物を植えさせ(「転作」という)、食料自給率を上げるのだというもっともらしい看板を付けたのである。


自民党農林族が目を付けたエサ米

 しかし、米農家のほとんどは兼業農家なので、簡単に作れる米以外の麦や大豆などを作る技術も時間的余裕もない。転作したという形を作り、減反補助金を受け取るために、麦や大豆を作付けるが収穫はしない 〝捨て作り〟 という対応も行われてきた。

 農林水産省としては、とにかく米の生産を減少させればよいと考え、見て見ぬふりをしてきた。年間3千億円超の巨額の税金を減反・転作に投入しながら、食料自給率は上がるどころか下がっている。このため、自民党が注目したのがエサ用の米である。農家にとって米を作るなら主食用もエサ用も同じである。自民党は2009年からエサ用米を転作作物として補助金を交付し始めたのである。


減反強化によるエサ米増産

 自民党は政権復帰後の2013年、このエサ用米生産のための減反補助金を大幅に増額した。この減反補助金は、減反見直し当時の主食用の米販売収入とほぼ見合う水準に設定された。農家収入としては、これにエサ米の販売収入やその他の補助金が上乗せされるので、国民が食べるための米を作るよりも、牛や豚が食べる米を作る方が農家にとっては有利になった。

 減反は強化されたのである。こうしてエサ米の生産が増え、主食用の米生産が減少したことが、3年連続の米の価格上昇につながったのである。


減反は来年以降も継続される

 これが、安倍首相が40年間誰もなしえなかったのだと大見えを切った〝減反廃止〟である。フェイクニュースだったが、一部主要紙はそのまま報道した。減反が廃止されるなら米価が下がり、農協など農業界から大きな反対運動が起きるはずなのだが、それに気づいた記者はいなかった。40年間手を付けられなかったことが、農協という圧力団体の反対もなく簡単に実現できるはずがないではないか。その後の農協改革を巡り農協がどれだけ政治的に抵抗したかを見てもわかるはずである。米価・減反は農協にとって核心的利益である。

 このとき政府は2018年から米の生産目標数量(裏からすると減反目標数量)の配分を止めることにした(これを減反廃止と報道した)のだが、政府・農林水産省は生産調整(減反)は引き続き重要だとして、2018年以降も民間による需給調整をサポートすることにしていた。

 今回、全農等が民間の全国組織を作り、これまでの政府による目標数量の配分という役割を代替することが目新しく報道されているが、生産調整の主体が民間となることは2013年に決められていたことである。これもエサ米への補助金増額も2013年の減反見直しの中心的な内容である。それなのに、この二つを減反廃止の趣旨に反すると主張する全国紙は間違っている。減反廃止などなかったのである。


農家は貧しくない

 どの政党も一様に農家所得の向上を唱えるが、農業の中で最も低い米作農家の所得でさえ、国民平均と同水準である。豚肉農家に至っては、年間1千5百万円の純所得を上げている。

 農家所得は1960年代半ば以降、サラリーマン世帯の所得を上回っている。米作農家のほとんどは高齢の年金生活者や兼業農家であり、米から得られる所得はゼロまたはマイナスである。

 減反政策を廃止して米価が下がっても、主業農家に農地を貸せば地代収入が得られるので、彼らは損はしない。米価が下がると販売手数料収入が減少する農協は影響を受けるが、減反政策はこれらの米作農家にとっても意味がない。

 つまり減反政策で一方的に損をしているのは、国民・消費者に他ならない。農家所得の向上が農政上最大のテーマになるのは、選挙対策以外の何物でもないのだ。

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