外交・安保カレンダー(7月18-24日)

先週は欧州・中東が大きく動いた。14日夜に地中海沿岸リゾート・ニースで大型トラックを使ったテロが起き、翌15日夜にはトルコで軍の一部によるクーデター未遂事件が発生した。これらは一見別個の事件にも思えるが、現代史的には微妙に通じ合っている。今週はその共通項である「ダークサイド」に焦点を当てよう。

まずは、フランスから。31歳の容疑者はチュニジア出身の暴力的で世俗的な男だったようだが、犯行までの数週間で急激に「過激化」していったようだ。今年4月からモスクに通い始め、犯行の2週間前あたりから酒も飲まず、髭を伸ばすようになったという。17日には事件に関連して新たに男女2人の身柄が拘束されたらしい。

歴史を振り返れば、フランス人のナショナリズムの強さには脱帽せざるを得ない。この強烈な自己意識を支えるのはフランス人の自国文化に対する溢れんばかりの自信だろう。しかし、この自信こそが、ルペンのような民族主義者を生む一方で、フランスに夢を託したイスラム教徒の移民たちをも疎外しているのではないか。

要するに、こうしたテロ事件の続発はフランス版「ダークサイドの覚醒」が、単に白人系キリスト社会だけでなく、アラブ系ムスリム社会の中でも、急速に拡大していることを示していると考える。それでは、トルコの場合はどうか。今回のトルコ軍部の一部の動きはトルコの「ダークサイドの覚醒」を反映したものなのだろうか。

答えは「否」だ。むしろ、トルコ版「ダークサイド」は既に覚醒し、政権まで獲得していると見る。エルドアン政権は、伝統的エスタブリッシュメントである「世俗主義と軍部」に対する「イスラムと庶民」の強い怒りによって民主的に選ばれた。1923年の建国以来繰り返された軍事クーデターはこの「ダークサイド」を封じ込める努力だったのだ。

当初エルドアン政権は国民の多くの支持を得た。しかし、同政権が長期化するにつれ、最近では不正腐敗と独裁化が目立つようになった。今回エルドアンはクーデター首謀者として「ギュレン運動」を強く非難しているが、この穏健なイスラム主義思想と軍の伝統である世俗主義に接点はあったのか。実に興味深いテーマである。

現時点での筆者の仮説は以下の通りだ。①エルドアン政権は民主的プロセスによって「ダークサイド」を基盤に生まれた政権である、②最近は腐敗と独裁化により民衆の同政権に対する支持が低迷し始めている、③今回のクーデターは旧エスタブリッシュメントと良識からのダークサイドに対する「逆襲」の兆候ではないか、というものだ。

しかし、そのことはエルドアン政権が近く崩壊することを意味しない。見通しはむしろ逆だろう。クーデターが中途半端だったこと自体、トルコ世俗主義に昔のような勢いがないことを示している。今後、エルドアンはクーデターを口実に反対派への締め付けを強めるだろう。今後トルコの「ダークサイド」は一層「覚醒」していくのではないか。


〇欧州・ロシア 
18日にケリー長官がEUと英国を訪問する。英国新政権発足後、米国務長官の訪英は初めてとなる。メイ新首相の内閣が対米関係をどう見ているか、興味深い。20日にはギリシャの欧州中央銀行に対する負債23億ユーロの支払い期限が来る。これまではBrexitで大騒ぎしてきたが、ギリシャ問題は先送りしているだけなのか。

〇東アジア・大洋州
20日にベトナム議会がTPPを批准する。21日にはクアラルンプールでマレーシア、インドネシア、フィリピン三国の国防相会合が開かれる。議題は勿論南シナ海問題だろう。先週は中国が7月12日の常設仲裁裁判所の判断に噛みついたが、公の場での宣伝合戦の行方よりも、これら三国がどう動くかの方が遥かに重要だろう。

〇中東・アフリカ
19日に核問題に関するイランとP5+1の会合が開かれる。個人的には、制裁の完全解除に向けた話し合いがどこまで進むかに関心がある。一方、20日にはISとの戦いに関するNATOとGCCの国防大臣会合が米国で開かれる。しかし、最も大事なのは米国のイニシャティブではないのか。今のオバマ政権はどこまでやる気なのか。

〇アメリカ両大陸
18-21日に共和党党大会がクリーブランドで開かれる。混乱がなければ良いが。トランプの副大統領候補マイク・ペンスはちゃきちゃきの保守派だが、この正副大統領候補は水と油で、党の一体感は全く感じられない。文書を読み上げるトランプの演説に魅力はないが、トランスクリプトなしのアドリブ演説では何を言うか今も保証がない。こんな大統領候補を担がなければならない共和党が哀れだ。

〇インド亜大陸 
特記事項はない。今週はこのくらいにしておこう。

7月18日 EU外相理事会(ブリュッセル)
18日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
18日 欧州議会安全保障・防衛小委員会代表がマリを訪問
18-21日 米国共和党代議員大会(オハイオ州クリーブランド)
19日 ウクライナのグロイスマン首相がブリュッセルを訪問
19-20日 ブラジル中銀、Copom
19-22日 ASEAN高級経済実務者会合(SEOM)
20日 南ア6月CPI発表
20、22日 WTO、中国に関する貿易政策レビュー(ジュネーブ)
21日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
21日か22日 ロシア1~5月貿易統計発表
21-26日 第49回ASEAN外相会合(AMM)、ASEAN地域フォーラム(ARF)(ビエンチャン)
22日か25日 ロシア6月雇用統計発表
22日 CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)ASEAN高級経済実務者会合(ラオス・ビエンチャン)
23-24日 G20財務相・中央銀行総裁会合(中国・成都)
24日 韓国・ASEAN外相会議(ラオス)
24-25日 ロシアASEAN外相会議(ラオス・ビエンチャン)

【来週の予定】
7月25日 ASEAN+3/東アジアサミット(EAS)外相会議(ラオス)
25日 メキシコ5月小売・卸売販売指数発表
25-28日 米国民主党代議員大会(ペンシルベニア州フィラデルフィア)
25-8月1日 フランシスコ法王がワールドユースデーのためポーランドのクラクフを訪問
26日 メキシコ6月雇用統計発表
26日 香港6月貿易統計発表
26-27日 米国FOMC
27日 メキシコ6月貿易統計発表
27-28日 WTO一般理事会(ジュネーブ)
27-29日 第5回ハラール食品国際見本市(モロッコ・マラケシュ)
28日 中国市場販路開拓商談会2016(北京)
28日 ペルー大統領就任
28日 ロシアのプーチン大統領がスロベニアを訪問
28日 全国知事会議(福岡)
28-31日 ニュージーランド・フードショー2016(オークランド)
29日 ユーロスタット、6月失業率発表
29日 米国第2四半期GDP発表(速報値)
29日 ロシア中央銀行理事会
29日 ブラジル6月全国家計サンプル調査発表
31日 東京都知事選挙
下旬 第14期第1回ベトナム国会
下旬 ブラジル6月月間雇用調査発表
下旬 インドモンスーン国会
7月下旬 ベトナム第14期第1回国会
7月中 IMF 世界経済見通し改訂版発表
7月中 赤道ギニア大統領選挙
7月中 サントメプリンシペ大統領選挙

(宮家邦彦 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

« 外交・安保カレンダー(7月11-17日) | トップページ | 外交・安保カレンダー(7月25-31日) »

« 外交・安保カレンダー(7月11-17日) | トップページ | 外交・安保カレンダー(7月25-31日) »